農福連携をスタートするために必要な3つのこと

統括研究員 谷川大致
監修・執筆統括研究員 谷川大致
農福連携をスタートするために必要な3つのこと
  1. マーケティング:「求めるもの・求められるものを探る」
  2. コンセプト作り:「全員が想いと志を確かに分かち合う」
  3. 政策を追い風に:「多数ある公共政策から最適解を導く」

誰一人として取り残さない共生社会の実現──このサスティナブル課題を切り拓くひとつの活路として昨今注目をされている活動が農福連携と呼ばれる取り組みです。
その名称の通り農業福祉を繋げる試みとなります。

農業(農家)には人手を、福祉(高齢者・障がい者・生活困窮者・触法障害者等)には社会参画の機会を、それぞれ創出するという画期的な活動です。

農林水産省・厚生労働省・文部科学省・法務省が中心となって推進されている農福連携の取り組みは、今や机上の空論ではなく数字として見える着実な成果を上げています。
農林水産省調査(平成31年)によれば、農福連携に取り組む農業経営体の76%が「障害者を農業の現場に受け入れた事により貴重な人材として成長した」と認識し、78%が「5年前と比較して年間売り上げが増加した」と示しています。

また障害者等の側からも79%が「利用者の体力がついて長い時間働けるようになった」、62%が「利用者の表情が明るくなった」、74%が「過去5年間の賃金・工賃が増加した」という結果が得られているのです。

しかし、当然ながら農福連携は一筋縄ではいかない活動でもあります。農業側にも福祉側それぞれが困難な課題を抱え、それらが複雑に絡み合っているからです。
農福連携をスタートさせるにはそうした課題を解きほぐす専門的な技能・ネットワークが不可欠であると言えます。

私たち合同会社AMU経営研究所では中小企業診断士として培った知見・経験を通じ、「農福連携をスタートさせるために必要な要素が3つある」という分析を行っています。

マーケティング:「求めるもの・求められるものを探る」

最初に必要となるのはマーケティングです。
農福連携はどこでも誰でも繋げれば良いという訳ではありません。周辺領域に就業支援施設B型での就業場所としてのニーズがあるのか、農業側・福祉側それぞれにどのような悩みや強みがあるのか、そうした悩みや強みはニーズと合致するものなのか等、市場にある調査を精緻に行わなければならないのです。

「農業労働力の確保」「農地の維持・拡大」「地域コミュニティの維持」等の農業側の求めるもの、「障害者雇用機会の確保」「賃金の向上」「生きがいの創出」「一般就労に向けた訓練」等の福祉側が求めるもの、これらの声は現場によって様々である。統計分析だけではなく、現場に赴き声を聞く支援もまた必要となります。

このように農福相互に求めるものを深掘りしなければ、連携をした際に事業としてのミスマッチが生じてしまいます。逆に言えば、このマーケティングの正確性が高い程、連携の品質は格段に向上します。
特にマーケティングによって農家が有する技術的な強みと福祉が有する就業的な課題が合致すると判明した場合、その事業は強烈な推進力を得る事となるのです。

コンセプト作り:「全員が想いと志を確かに分かち合う」

農業と福祉を繋げる一部の要素はお金であり、収益性の確保を目指す事が不可欠であるという点は紛れもない事実であると言えるでしょう。

しかし、それと同時に農福連携を成功させるに当たって絶対に看過してはならない要素が想いと志の共有です。このような「コンセプト作り」が中途半端な状態に留まってしまうケースでは、農福連携の力が極めて弱くなるものと考えなければなりません。

例えば農林水産省「農業センサス」の発表によれば、日本における農業人口の推移は毎年10~50万人ほど右肩下がりで減り続けており、2000年に約389万人であった人口は2019年において168万人にまで到達しています。
こうした現場の状況を鑑みた時、「利益を確保できるか出来ないか」という収益性のみならず、「困っている現場を助けたいのだ」という強いコンセプトが課題解決の為に必要となります。そのコンセプトの分かち合いが農福連携の大きな原動力となるのです。

例えば農福連携で障害者の就労場所として農地を提供した際、社内から反対の声が上がるかもしれません。それは「責任を持ち切れない」「今までの業務に加え説明の手間が増えるのではないか」「時間が余計に掛かってしまうのではないか」といったものです。
それらはひとつずつ丁寧に事を進めれば必ず解決出来るものが多いのですが、コンセプトがしっかり共有されていない状態では社内で賛同が得られずに連携が頓挫してしまう危険性があります。

ここで私たちの中小企業診断士としての力が改めて発揮されます。
企業・組織が一丸となる為には社長と社員、また場合によってはその家族が同じ想いと志を共有しなければならず、私たちは常にそのコンセプトの橋渡し役としての機能を果たしているのです。

POINT

組織は関わる誰もがビジョン・信念を分かち合って「共に紡ぐ」「共に創る」「共に彩る」事が肝心であり、その為の支援は極めて高い専門性が要求されます。

政策を追い風に:「多数ある公共政策から最適解を導く」

マーケティングとコンセプト作りに成功しても、農福連携がすぐに成功に至る訳ではありません。実践的な側面で費用・労力の課題が生じる為、そのままでは多くの壁に遭遇する事となります。
そこで必要となるのが、国家が差し伸べている手を最大限に活用する事です。

現在、厚生労働省を始めとした農福連携に関わる政策的なサポートは非常に手厚い状態であると言えます。ただし手厚いが為にそれぞれが複雑化しており、本当に必要な支援策を享受する事は専門的な知見を持たないと見つけにくく、また利用をしにくいものとなります。

中小企業診断士の世界では国家の政策、自治体の政策についての支援を日ごろから行っており、補助事業のお手伝いに関する事項は得意分野です。農福連携においてもこの専門性を存分に活用出来ると言えます。
農業経営体と福祉側が何をどのように成功に導きたいと思っているか、その到達点に向けた支援として、私たちは公共政策の探索から申請までをトータルで支援する事が可能です。

瑞々しい未来に向けて

実りの喜び、働く生きがい、地域の幸せ──農福連携はあらゆる未来の明るい可能性を秘めた活動です。中小企業診断士としての使命は、その可能性をしっかりと手で握り締める事、そしてそのバトンを次の世代に確かに渡す事になるでしょう。
素晴らしい風土・文化を有する日本を適切な形で次の世代に語り継がなければなりません。

改めて言いますが、農業も福祉も問題が山積しており、それらは魔法のように一瞬で解決出来るものではありません。しかしながら、出来る事を積み重ね、一歩ずつ農業の人手不足等の問題を解決していく事で、必ず道は拓けます。
千里の道も一歩から。私たちAMU経営研究所は瑞々しい未来に向けて、その確かな一歩を支える存在になりたいと考えています。

次の世代のために一歩前へ進みましょう。

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