製造業で営業利益率を上げるには?【第4回】保守の定額サービスを始める前に必要な、事前情報の集め方

統括研究員 谷川大致
監修・執筆統括研究員 谷川大致
製造業で営業利益率を上げるには?【第4回】保守の定額サービスを始める前に必要な、事前情報の集め方

経営者がメンテナンス部隊を組織し、保守の定額サービスとして運用しようとすると、社内の技術部門から反対意見が出るかもしれません。

よくあるのが「定額提供の約束をした後で、想定以上の修理費用がかかってしまったら会社が潰れるのではないか」という心配です。
お客様から必要な料金をもらえず持ち出しが大量に発生すれば、確かに経営にはマイナスです。

しかし、この心配はサービス設計の際に解消することができます。
会社として損をしない上限や下限を設けて、サービス内容をコントロールすればいいからです。
ただし、限度を見極めるには必ず事前情報を集めて分析しなければいけません。
今回はその方法を詳しく紹介します。

事前情報を収集・分析し、サービスを設計する手順

① 過去の修理履歴からコストを試算する

新しいサービスを始める場合、運用途中で会社が破綻しないようにさまざまな数値を設定する必要があります。そのために、将来どれだけのコストが生じるか予測します

調査に最適なのは過去の修理実績です。どの製品を販売し、お客様はどんな環境で使っているのか。修理依頼は何回受けて、その内容はどうだったか。そのときの自社負担の費用はいくらか。少なくとも過去1年間、できれば2〜5年間のデータをリスト化します。

② 過去の情報では足りない項目を明確にする

メンテナンスサービスを構築するために過去データを見直すと、意外と「欲しい情報を収集していない」という課題に突き当たります。
その場合は、今後のチェック項目として明確にし、営業職や技術職のメンバーに共有します。

例えば全体費用のデータは残していても、発注した部品の個別料金が不明だと戦略が立てられません。また、修理に関わったメンバーが判明しても、修理にかかった時間データがないこともあるでしょう。

これらの不足していた項目を再度チェックし、修理実績のデータを埋めていきます。

③ 自社が損をしない制限を設けてみる

出てきたデータをもとに、自社が損をしないラインを設定します。詳しくは次の項目で解説します。

自社が損をしない制限のかけ方「数種から吟味する」

上記③がサービス設計のキーとなる部分です。代表的な制限手法について紹介します。

A. 1社あたりの保証額を制限する

起こり得る全てのトラブルやアクシデントを保証してしまうと、出費の規模が読めません。しかし過去実績から「ここまでなら自社の損が出ない」という金額を1社あたりの上限としてサービスを決めれば、それ以上の出費はありません。

B. 年間の対応件数を制限する

今年度は10件だけ、100件だけというように、自社の体力に無理がない対応数をあらかじめ決めてしまう方法も有効です。

C. 数年で保守の定額契約を更新する仕組みにする

購入後の全期間保証は現実的ではありません。家電量販店と同じように、3年保証や5年保証という設計にしておくのが無難です。
数年ごとの契約方式にはいくつかのメリットがあります。

第1に、メーカー側がお客様を見極めるお試し期間にもあてられる点です。無茶な使用をする企業であれば次回からメンテナンス契約から外すこともできます。

第2に、初回・2回目・3回目と更新するにつれて、細かな保証内容を変更できる点です。壊れやすいところは手厚く、そうでないところは薄くしてお客様のニーズとメーカーの対応力をマッチさせやすくなります。

第3に、定期的な検査を持ちかけやすい点です。日々の使用状況をヒアリングする口実になるほか、次の後継機を薦めるきっかけにもできます。
期限付き保証は営業にも有効な保守契約になるのです。

D. 基幹部品を外した保証内容にする

自社が損をしないサービス設計を考える上で、最後の手としてあるのは「最も消耗しやすい部品は別途保証/他の部分は定額保証」と切り分けることです。ただしお客様としてはメリットが少なくなるので、あくまでも最終的な選択肢となります。

最初の数年は投資と考え、メンテナンスサービスを育てる

完璧なサービス設計を完了させてから提供するのは、理想的ではありますが現実には無理です。
それよりも大まかな枠を早めに作り、早く実地で動かしてみるほうが長期的な利益を生みます。

ひょっとしたらメンテナンスサービスを始めた初年度は損が出るかもしれません。しかし制限の数値を見直せば、再検討して十分に内容を改善できます。
メンテナンスサービスへの経費は投資だと考え、経験がサービスを育てるのだと捉えてください

うまく運用するコツとしては、自社メンバーだけでなくお客様も巻き込んで常に最適化を目指すことです。上限を設ける際にもなぜその数字なのかを種明かしし、最適なメンテナンスを行うためにも、常に正確な利用状況を教えてもらうようにします。

情報が集まれば、メンテナンスだけでなく製品開発にも声を生かすことができるでしょう。メンテナンスのための事前情報収集は、将来の自社のための事前情報にもなり得るのです。

次の世代のために一歩前へ進みましょう。

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