ムリ・ムラ・ムダの削減
目次
製造業支援の一環として、今回から10回連載で「製造業の営業利益率の上げ方」をお伝えしたいと思います。
弊社代表の谷川は、これまで多くの中小企業の営業支援・研修を行ってきました。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)、国内コンサルティングファーム、中小機構、東京都中小企業振興公社、IDEC横浜などで200社以上の皆さんと課題に向き合った経験があります。
数々の製造業の現場を見て分かったのは【本業ではない雑務に追われて、適正な利益を出せていない】という共通の悩みです。
しかし対症療法では問題が解決できません。それは皆さん気づいています。ではどうするか。私たちは、現場で新たな営業フローを構築するしかないと考えています。いわば営業手法の大手術です。
そこで皆さんに知っていただきたいのが、ボイラーで有名な三浦工業株式会社が実践している営業手法です。
三浦工業はもともと愛媛県松山市で創業した企業です。昭和の初めに精米機製造からスタートし、高度経済成長期にはボイラー製造・販売の企業として急成長。現在、小型貫流ボイラー市場では国内シェアNo.1です。
製造業としての三浦工業の強みは何か。それは【メンテナンス営業の力】です。
売った製品の故障や不具合に対応するサービスは、皆さんも行っていると思います。でもそれは販売活動に支障をきたす「手間のかかる作業」だと考えていませんか。
三浦工業はこの発想を逆転させ、故障対応を「第2の収益の柱」としてメニューを組み立てました。面倒な手間ではなく稼げる事業だと考えて、マネタイズの仕組みを見直し、成長を果たしたのです。
製造業で販売する機械は厳しい環境で運用されるため、必ずメンテナンスが発生します。三浦工業は、避けられないプロセスなら「事前に料金をいただく正規のサービス(=保守契約)にしよう」と考えました。
そこでメンテナンスを契約化し、契約後3年間は無償で応じるサービスを始めました。契約には修理代のほか交換部品代も含み、3年分は保険と同じように前金でいただくので資金繰りも楽です。
3年間の無償対応は、一見損をするようにも思えます。しかし細かく分析すると、上手に利益を乗せながらお客様に喜ばれるWin-Winのシステムが組み込まれています。
この保守契約を、お客様の立場で見るとどうでしょうか。
まず3年分のメンテナンス費用を初年度に支払っているため、3年の間はそれ以上の負担がありません。修理に必要な部品が出ても、その料金までメンテナンス費用に含まれています。支払いの心配がなく、都度の料金交渉や稟議も不要なので安心して頼めます。
では、メンテナンス担当者の立場から見るとどうでしょう。
メンテナンスの実費はいただいた3年分の料金から差し引かれていくので、なるべく故障や修理を起こしたくないのが人情です。メンテナンスを必要としない状態、上手に運用されている状況をできる限り保ちたいと考えます。
するとお客様のニーズより先回りして、トラブルを防ぐための提案をするようになります。つまりメンテナンス部隊がソリューション営業を行う仕組みがあるのです。メンテナンス担当も営業を行う、これが三浦工業の大きな特長です。
製造業が販売する機械は、使われる環境によって耐用年数が大きく変わってしまいます。雑に扱われると早く故障や不具合が起き、適切な環境で使えば長持ちします。
そのため三浦工業のメンテナンス部隊は、お客様に向けて積極的に「適切な環境」を構築できるよう提案します。同時に、彼らには提案を実行できるだけの裁量・権限を与えました。いちいち本社に確認しなくても自らの判断でできる範囲が広いのです(詳しくは次回紹介します)。
目下の修理を行うのはもちろん、専門家が効率的な運用を提案し、追加料金なしで実行できる。この能動的な関わりがお客様に対しても好印象を生み、信頼感につながっています。
このシステムを回す体制作り、専門人材の育成、現場でのコミュニケーション方法など、ポイントはいくつもあります。三浦工業は「メンテナンス」という大きな収益を得るために各所でさまざまな工夫を施してきました。
今回の連載で私たちが皆さんに伝えたいのは、この三浦工業が行ってきた工夫の種明かしです。メンテナンス事業の収益化は、メカニズムが分かればどの企業でも再現が可能です。
皆さんも、メンテナンスの発想を変えるだけで収益が変わります。
この連載では三浦工業が活用してきた保守契約のシステムを分析しながら、製造業で再現できる営業利益率の向上策を紹介します。ぜひ取り入れてみてください。
次の世代のために一歩前へ進みましょう。
皆様からのご連絡をお待ちしています