株式会社HSSは、創業100周年を迎える米卸を基盤とする企業です。室町時代から続く庄屋の家系を背景に、4代前から米の卸売を始め、現在は米の集荷・精米・販売を主軸としています。
しかし同社の特徴は、流通業にとどまらない点にあります。農家の高齢化や離農による耕作放棄地の増加を受け、自治体からの要請で農地を借り受け、レンコン栽培や牧草ソルガムの生産に着手しました。単に農産物を扱うのではなく、自ら農業法人として生産にも踏み込み、地域農業を支える存在へと進化しています。
さらに、トラクターにデバイスを装着して作業履歴を可視化するシステム開発や、人工衛星による圃場診断、ドローンによる防除・施肥サービスなど、スマート農業分野にも積極的に取り組んでいます。大型化する農家への栽培指導や、大手外食との契約栽培も展開し、農家の収益向上に直結する支援を行っています。
売上はこの数年で急拡大しました。背景には、「農家と共に」という理念を軸に、実需と技術を結び付ける経営判断があります。農業を守るだけでなく、伸ばす。その姿勢が企業成長と地域活性を同時に実現しています。
牧草ソルガムへの挑戦は、近隣の酪農家への飼料供給から始まりました。スイートソルガムを初めて見た際、サトウキビのようだと直感し、分析の結果、糖度が高く栄養価にも優れることが分かりました。乳酸発酵性にも優れ、酪農家の乳量向上に寄与する飼料となることが確認されました。
加えて、近年深刻化する地球温暖化の影響も背景にあります。酪農家は夏場の猛暑により、牛が餌を食べなくなり、乳量が落ちるという課題に直面しています。暑熱ストレスによって牛の食欲が減退し、結果として収益にも影響が及びます。高温下でも嗜好性が高く、安定した発酵品質を保てる飼料の必要性が高まっていました。
当初は一般の牧草と同程度の低価格での販売でしたが、酪農家に対象を絞ることで価値が認められ、価格も向上しました。現在は10ヘクタール規模で栽培し、将来的には100ヘクタールへの拡大も視野に入れています。
さらに、牛の堆肥を活用して土壌改良を行い、その圃場でソルガムを栽培し、再び飼料として供給する循環型モデルが生まれています。耕作放棄地の再生と畜産の強化を同時に実現する仕組みです。
SAFとの接点は、成田空港からの問い合わせでした。サトウキビが本州での栽培に制約がある中、九州から北海道まで栽培可能なソルガムが注目され、自治体の補助制度を活用した実証実験が始まりました。実証実験を始めるにあたり、このソルガムの種子を開発した大学研究者ならびに策汁液をバイオエタノールへ精製する(最終的にはSAFに)大学研究者に連絡をし、同社は搾汁工程までを担い、各大学研究者と連携する体制がつくられました。
牧草ソルガムは、春に播種し、夏と冬の年2回収穫が可能な作物です。栽培管理の手間も比較的少なく、耕作放棄地でも導入しやすい特徴があります。地元畜産農家から堆肥を直接投入することで肥料コストを抑え、土壌改良と収量確保を両立しています。
ソルガム事業を進める中で、新たに見えてきた課題もあります。多くの酪農家は自社農場で飼料を自給していますが、主力作物であるトウモロコシが近年、獣害に悩まされています。特にイノシシが圃場に侵入し、食害を受けるケースが増えています。収量が減るだけでなく、イノシシの匂いが付着した飼料は牛が食べなくなるため、自給率が3割程度まで落ち込んだという声もあります。
その点、同社のソルガムは背丈が高く、穂も高所に位置するため、イノシシに狙われにくい特性があります。獣害リスクの低減という観点からも、酪農家の期待が高まっています。
SAF用途については、搾汁液をエタノール原料として活用する実証段階にあります。ただし同社は、あくまで飼料事業で採算を確保することを前提としています。飼料としての販売で基盤収益を確立しているため、副次的に搾汁液を提供できるという位置付けです。搾汁とサイレージ利用を両立させることで、無理のない形でSAFサプライチェーンに関与しています。
また、特別に開発した種子の海外展開も進めています。東南アジアでの米栽培や、乳量向上を目的としたソルガム種子の普及など、国内外を視野に入れた取り組みが進行しています。農業法人でありながら、グローバルな視座を持つ点も同社の強みです。
一方で、SAFの国産化については現実的な視点を持っています。日本の需要をすべて国産で賄うことは容易ではなく、コスト面での課題も存在します。また、エタノールからSAFへ転換する大規模設備には巨額の投資が必要であり、単一企業では解決できない領域もあります。
それでも、牧草ソルガムを軸にした循環型農業モデルは、SAFサプライチェーンの上流を支える有力な選択肢となり得ます。本業である飼料供給の採算を確保しながら、副産物としてエネルギー原料を供給する仕組みは、持続可能性の観点からも重要です。
サトウキビ由来SAFが注目される中、本州で展開可能なソルガムという選択肢は、地域資源活用の幅を広げます。農業法人が主体となり、耕作放棄地を再生し、酪農や畜産と連携し、さらに航空燃料という新たな分野へ接続していく。この挑戦は、産学官民が連携するサプライチェーンの実践例です。
牧草ソルガムは単なる飼料作物ではありません。気候変動や獣害といった現場課題に応えながら、地域循環を生み出し、SAFという新たな価値へとつながる可能性を秘めた作物です。新たな農業のカタチが現場で進みつつあります。
写真:ソルガムの畑 株式会社HSS ホームページより
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