鹿児島県奄美大島に位置する奄美市では、基幹作物であるサトウキビを軸に、地域農業と産業を支える取り組みが長年続けられています。その中心的な役割を担っているのが、市役所内に設置されている奄美市糖業推進室です。
今回のインタビューでは、同室が日々どのような事業を行い、生産者や地域にどのような価値を提供しているのか、さらに近年注目されるSAFに対してどのような印象を持っているのかについてお話を伺いました。
奄美市糖業推進室の主な役割は、サトウキビ生産の安定と持続を支えるための各種支援事業を企画・実行することです。国のサトウキビ関連事業を活用しながら、資材や薬剤、土壌改良資材などの購入費用に対する助成を、ここ10年以上にわたり継続して実施しています。
これらは、事業が続く限り毎年行われているもので、生産現場にとっては欠かせない支援となっています。
また、市と関係団体で構成される奄美市さとうきび振興対策協議会を通じて、病害虫の発生抑制や収量向上を目的とした取り組みも行われています。
具体的には、薬剤や除草剤、各種資材の購入費用の一部助成、有機資材や土壌改良資材の一部助成、さらにはハーベスターなど収穫機械の修理費用の一部助成など、多岐にわたる内容です。
いずれも、生産者の負担をできる限り軽減し、営農を継続しやすい環境を整えることを目的としています。
支援制度を設計するうえで、糖業推進室が特に重視しているのが「手続きの分かりやすさ」です。
行政の補助事業は複雑になりがちですが、国の事業については、市から生産者に対して必要最小限の書類のみを案内し、申請のハードルを下げる工夫がされています。
畑の場所などの情報を提出すれば手続きが完了する仕組みで、書類作成が苦手な農家でも利用しやすいよう配慮されています。
協議会事業についても、農協と連携することで、生産者が直接煩雑な申請を行わずに済む体制が整えられています。対象となる資材は農協で取り扱われており、購入時に申請書(氏名・押印のみ)を書くだけで、あらかじめ助成が反映された価格で入手できる仕組みです。
こうした現場目線の設計により、生産者は制度を意識せずとも自然に支援を受けられる環境が構築されています。
奄美市糖業推進室の活動は、生産支援にとどまりません。近年は、地域の次世代を担う若者への働きかけにも力を入れています。市内の県立高校と連携し、総合的な探究の時間の一環として、サトウキビをテーマにした学習活動を支援しました。
生徒たちは実際にサトウキビの植え付けを体験し、今後は収穫までを見据えた取り組みを行う予定です。
こうした活動には、サトウキビという地域の基幹産業を若い世代に身近に感じてもらい、将来的にUターンして農業に関わる人材が生まれることへの期待が込められています。
地域の文化や産業を次世代につなぐという点で、糖業推進室の役割は大きな社会的意義を持っています。
今回のインタビューで、SAFという言葉自体は、関係者の間でも最近知ったという段階であることが率直に語られました。一方で、サトウキビの副産物である糖蜜や搾りかすなどが、航空燃料として活用される可能性があるという説明を受け、前向きな受け止めも示されています。
製糖工場では、糖蜜の活用について模索が続いており、現時点では飼料用途などが中心ですが、必ずしも十分に使い切れているとは言えない状況もあります。
もしSAFとしての活用が現実的であり、経済性や収支面で折り合いがつくのであれば、新たな選択肢として検討する価値はあるのではないかという認識が示されました。
判断の主体は製糖工場になるものの、資源を無駄なく活かすという考え方自体には強い共感があると言えます。
奄美の製糖産業は、結果としてSDGsに通じる取り組みを長年積み重ねてきました。
搾りかすを燃料として活用し、工場のエネルギーを賄う仕組みや、海水や河川水を循環利用する工程、最終的に出る副産物を堆肥化して農地に戻す循環など、現場では「高度循環型工場」としての工夫が自然に行われています。
糖業推進室としても、こうした取り組みを特別な施策としてではなく、日常の延長線上にあるものとして捉えています。
そのため、SAFについても、突飛な新技術というよりは、既存の資源循環の考え方をさらに広げる選択肢として受け止められている点が印象的でした。
奄美市糖業推進室の取り組みから見えてくるのは、行政が果たし得る重要な役割です。生産者の負担を減らす制度設計、関係機関との調整、地域資源を次世代につなぐ活動など、これらはサトウキビSAFサプライチェーンを構築するうえでも不可欠な要素です。
現時点でSAFに直接関与していなくとも、地域に根差した行政組織が持つ知見と調整力は、将来のサプライチェーン形成において大きな力となる可能性があります。
サトウキビを守り、活かし続けてきた奄美の現場には、新たなエネルギー利用へとつながる土壌がすでに存在しています。
今後、技術や制度の議論が進む中で、こうした地域の積み重ねがどのように次の展開へ結びついていくのか、注目していきたいところです。
撮影:奄美大島にて 合同会社AMU経営研究所
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