日揮ホールディングス株式会社・合同会社SAFFAIRE SKY ENERGY | 合同会社AMU経営研究所

日揮ホールディングス株式会社・合同会社SAFFAIRE SKY ENERGY

  • 従業員数8,365名
  • 資本金238億8,570万円
  • 売上高858,082百万円

国産SAFの実現に向けた挑戦 ― サプライチェーンをつなぐ“橋渡し役”として

事業の内容

日揮ホールディングス株式会社は、国内外で大型プラントの設計・建設を手掛けるエンジニアリング企業として知られる。同社は近年、脱炭素社会の実現を目指す新たな事業領域として、持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)の製造・供給に取り組んでいる。

中心となるのは、日揮ホールディングス、コスモ石油、レボインターナショナルの3社による共同出資会社「サファイア・スカイ・エナジー」である。
大阪府内に設置した製造装置では、全国から集めた使用済み食用油を原料として年間約3万キロリットルのSAFを生産し、関西国際空港や羽田空港などへの供給を開始している。各地で開催される初回供給イベントには自治体首長も参加し、環境価値の高い国産燃料として注目を集めている。

取組まれた背景

SAFは、従来の化石燃料に比べて温室効果ガスの排出を大幅に削減できる一方、原料の調達や製造コストなど多くの課題を抱える。特に日本では、使用済み食用油の回収ルートが整っておらず、製造よりもむしろ「原料をどう確保するか」が最大のハードルとなっていた。
この点で日揮ホールディングスは、単なるプラント建設会社の立場を超え、「上流から下流までを自らの責任でつなぐ」という姿勢を明確にした。同社は、原料を供給してくれる事業者・自治体などの“入口”を開拓する役割を担い、全国規模のネットワークづくりに挑んでいる。

この発想の源にあるのが、2021年に日揮が主導して立ち上げた「ACT FOR SKY(アクト・フォー・スカイ)」という産官学連携の枠組みである。航空会社やエネルギー企業などが参画し、「国産SAFを使う意義を社会全体で共有する」ことを目的とする。国が供給側と需要側の間で調整に苦慮する中、同社は中立的な立場からバランスを取り、両者を橋渡しする存在となった。

さらに、この流れを裾野に広げるために始まったのが「Fry to Flyプロジェクト」である。参加費も会費も不要の緩やかなネットワークで、誰もが自社の取り組みを発信できる“仲間づくり”の場として機能している。ここで「同業他社が参加しているなら自社も」という機運が生まれ、循環的な拡大が進みつつある。

現在の取組状況

現在、サファイア・スカイ・エナジーの製造プラントは稼働を開始し、国産SAFの供給が現実のものとなった。しかし、日揮が担うのは単に装置を動かすことではない。廃食用油の提供元を開拓し、レボインターナショナルが収集・運搬し、コスモ石油が製造と供給を担うという一連の流れを安定的に機能させるための「調整と関係構築」が、同社の真価である。

こうした役割を果たせる背景には、同社が長年にわたり世界中で巨大プロジェクトを取りまとめてきた経験がある。文化も価値観も異なる多様な人々を一つの目的に向かってまとめ上げる「プロジェクトマネジメント力」は、まさにエンジニアリング企業としてのDNAだ。

SAF事業グループのグループリーダーとサファイア・スカイ・エナジーのCOOを担う西村氏は、「我々はアセットを持たない企業として、世界中の多様な立場の人と協働しながら合意を形成してきた。SAF事業も同じ。相手の立場に立ち、最適な落としどころを見つけることが重要です」と語る。その考え方は、単なる技術開発を超え、社会を動かす“調整力”として生かされている。

今後の課題

今後の焦点は、既存の仕組みをどう変革していくかにある。廃食用油の供給ルートは既に多くの用途で使われており、単に価格で競うだけでは持続性がない。コストをかけず、かつ多くの人に「良い活動」として共感される仕組みづくりが求められている。

また、国内資源だけでSAF需要を満たすには限界があり、国際的な資源循環の視点も欠かせない。西村氏は「まずは日本で確かなモデルを築くことが最優先ですが、将来的には海外との連携を視野にスケールアップを図りたい」と展望を語る。

さらに、サトウキビなどの植物資源を活用したアルコール由来のSAF(アルコールトゥジェット)にも注目している。同氏は「バイオエタノールは世界で最も豊富なバイオ資源の一つ。大きな可能性がある一方で、食料との競合可能性や価格上昇などの課題もあり、事業の目的・本質を見失わないように展開することが大切」と指摘する。廃棄物資源の活用を軸にしながら、次の原料をどう位置づけるかが今後の大きなテーマとなる。

同社が描く未来像は、単なる燃料供給の枠を超え、社会全体が連携して資源を循環させる仕組みの構築である。国産SAFの開発は、日本が世界に示す「持続可能な産業モデル」への挑戦でもある。日揮ホールディングスは、着実に新たな空の時代を切り拓いている。

次の世代のために一歩前へ進みましょう。

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