JAおきなわは、沖縄本島および離島に広がる農業の発展を支える地域密着型の組織です。サトウキビは沖縄における重要な農産物であり、JAおきなわはその生産振興や農業従事者の支援を積極的に行っております。しかし、農業従事者の高齢化や労働力不足、機械化の進展といった課題は依然として大きな壁となっています。
本レポートでは、JAおきなわのサトウキビ産業への取り組みを中心に、生産現場の現状、直面する課題、そして持続可能な農業への道筋について詳しく探ります。また、農業の未来を支えるための機械導入や労働力確保の施策、さらには持続可能な航空燃料(SAF)といった新たな可能性にも触れながら、サトウキビ産業の未来像を描きます。JAおきなわがどのように地域農業の振興と安定化を目指しているのか、その取り組みと展望を紐解いていきます。
企業名 | JAおきなわ(沖縄県農業協同組合) |
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所在地 | 沖縄県那覇市壺川 |
主な事業 | 農業事業、生活事業、信用事業、共済事業などの幅広い分野から、「組合員をはじめとする利用者・地域住民・消費者から第一に選ばれるJA」を目指します。 |
沖縄に中国から製糖技術が渡ってから400年以上、サトウキビは沖縄の産業振興を支える存在です。地域の産業の安定を担ううえ、台風に強く育てやすいサトウキビ栽培によって農地を維持することで、食料自給率の低下や野生動物の被害、赤土の流出など、さまざまな問題の発生を予防してきました。
現在、JAおきなわは、沖縄本島・離島群全域を管轄とし、サトウキビの関連事業に携わっています。農業従事者の高齢化等の問題に多角的に向き合いながら、生産振興や業務委託体制の策定、機械導入のサポートなど、各地域のニーズに寄り添った支援を行っています。
沖縄において、サトウキビは長く主要な農作物・産業でした。しかし、近年沖縄本島では宅地化が進み、栽培面積が減少しています。現在も生産を続ける製糖工場や農家の方々と共に、増産に取り組みながら振興を続けています。
一方離島では、台風や干ばつなどの影響を受けるものの、サトウキビは地域になくてはならない重要な農産物です。高齢化の影響で栽培面積に若干の減少はありますが、生産振興に努め、微減に抑えることができています。
最大の課題は、農業従事者の高齢化と労働力不足です。負担を軽減するために機械化やスマート農業といった方向での取り組みを推進してきましたが、機械化をスムーズに進めるにも課題があります。
ひとつはコスト面の課題です。ハーベスターは必要数が限られているため、メーカーが受注生産を行っています。さまざまな物価上昇のあおりを受け、導入価格は大きく上昇しています。中型機で1台あたり約7,000万円、小型機で約4,000万円と数年前に比べ2割近く高額になっており、大型機では1億円を超えるケースもあります。
また、機械を導入できても、そのオペレーターも不足しています。小型機をそれぞれの農家で運用することが難しいという点も、大型機の導入が避けられない背景として存在します。行政からの支援があっても、高齢化した農業従事者にとってはその手続きが煩雑で、腰が重くなるという心理的な障壁もあります。
そのような背景がある中、効率的に支援を受け、事業を行ううえでの、「農地の集約化」の動きがあります。本島内ではあまり活発な動きはありませんが、離島では地域計画を進めながら集約化が進んでいます。離島はむしろ個々の農地に限りがあるため、集約したいニーズがあるので、自然と集約化が進むのです。本島では農地が商業施設や宅地に転用されることが多く、農地を移すことも難しいことが、傾向の差を生んでいます。また、農家の方々が自身の土地に強い愛着やこだわりを持っていることの影響もあるでしょう。
高齢化や働き手の問題とは別に、農地の細分化による管理面等での課題も見られます。本島では土地の相続が進み、遺産分割の影響で農地が細分化されています。以前は親戚同士で土地の貸し借りができていましたが、相続が始まると権利関係が複雑になり、農地を借りることが難しくなります。分割された農地を利用するためには多くの契約が必要になり、それが農地活用を阻む要因になっています。
離島では農業が主要な産業のため、そういった場合も補助金を活用しながら農業を継続する動きが強いです。一方、本島では他の職業選択肢が多く、農業の継続が難しい状況があります。今後、相続や土地分割の問題はさらに大きな課題になると考えています。
土地の分割が過度に進むと、農地としてのまとまりが失われるため、効率的な農業経営が難しくなります。土地改良の観点からも、道路に面していない農地の活用が課題となり、農地としての価値が下がるケースもあります。
沖縄では特に子どもの数が多いのですが、相続時に均等に分割する傾向も、土地の細分化に拍車をかけています。その結果、未登記の土地や、所有者が複数人にまたがる事例も多くみられるのが実状です。
農業委員会や自治体もこの問題を重要視しています。平時の運用における問題だけにとどまらず、たとえば災害時に復興作業を進めようとしても、誰が所有者なのか分からない土地が多いことで支援が難しくなるケースがあります。農地だけでなく、他の土地でも同様の問題が起こっています。
現場心理的にも、土地を借りにくくなるという意識から、登記を進めることに抵抗を感じる傾向があります。以前の世代は口頭の約束で土地を貸し借りしていましたが、正式に登記すれば自ずと契約手続きが増え、中間管理機構を通じたマッチングにも半年以上かかることがあります。こうした制度上の困難も、農地利用の妨げになっています。
前項の課題解決のため、本項では、JAおきなわのサトウキビ産業への支援施策を見ていきます。
農業従事者の高齢化対策として機械化を進め、持続可能な栽培を支援しています。
ここで重要になるのが、機械の導入支援事業申請へのサポートです。JAおきなわは、ハーベスター導入を希望する法人に対し、補助事業の申請手続きをサポートしています。最近こそ落ち着いてきましたが、事業申請のサポートを通して、法人の数が増加しました。法人化することで直接的な事業主体になるため、さまざまな支援が受けやすくなるのです。管轄内の農業生産法人の約8割は宮古島に集中しており、法人化が進んでいる地域とそうでない地域の差が見られます。
宮古島で特に法人化が進んだ背景として、市が積極的に法人化を支援してきた経緯があります。一方、JAでは、法人化が難しい農家に対して、機械の導入支援としてリースで貸し出す仕組みを整えています。リースしているハーベスターは支店ごとに管理されており、JAが導入して委託運用しているケースと、JA自体が事業として運用しているケースの2パターンがあります。特に、南北大東や本島の一部地域では、JAが利用事業として直接運営しています。
また、新たな取り組みとして、オペレーターの支援システムを導入予定です。これにより、申し込みや代金精算の手続きが容易になります。
さらに、地図情報を活用した管理も進めています。令和6年度にはマッピングを含めた事業の展開が予定されており、現在データの補正作業を進めています。具体的には、住所情報と実際の農地データとのずれを補正中です。特に離島では地図上の名称と農家が実際に使用している名称とが異なることが多いため、これを統一する作業を進めています。完了には2~3年かかる見込みですが、正確なデータ整備がその後のさまざまなシステムや人員の導入をスムーズにすることを期待しての取り組みです。
ハーベスターの自動運転や運転補助の導入においては、その管制塔となるRTK基地局の設置が不可欠です。沖縄県での整備状況についてご説明いただきました。
JAおきなわの子会社では、すでに南大東島にRTK基地局を設置しています。ただ、離島の場合は基地局の設置が難しく、県単位での整備計画が必要と考えています。他県の例を挙げると、たとえば宮城県では7か所、福井県では4か所の基地局設置で全域をカバーできています。しかし、沖縄のような離島地域では広範囲にわたるため、同様の方式では対応しきれません。現在、県や関係機関と協議しながら、適切な設置計画を検討しています。
こういったITインフラの整備も含めた、機械化や自動化の推進が必要になってきます。より使いやすい機械を導入し、効率化を進める必要があります。しかしながら、沖縄の多くの地域では農地の整備が十分ではなく、大規模な機械化が難しいのが現状です。そのため、農地の整備を進め、自動化に対応できる環境を整えることから着手せねばなりません。それらの地道な整備の先に、生産量の維持とコスト削減を両立できる仕組みの構築が成し遂げられると考えています。まだ課題が多く、道のりは険しいですが、重要な取り組みであると認識しています。
収穫作業をサポートするために「手刈り班」を募集しています。全国から人材を募り、農家を支援する体制を整えています。ただ残念ながら、100名の募集に対して20名しか集まらないのが現状です。ハーベスターのオペレーターの賃金は、最低賃金を考慮すると、現在の水準では人が集まりにくいことは予想できるのですが、一方で、賃金を上げると結果的に生産者の負担が増えてしまうため、慎重な検討が必要です。
不足した分の人手は、結局、生産者が家族で補うケースが多くなります。しかし、そうなると次世代が「農業は大変だから継ぎたくない」と敬遠してしまい、さらに担い手不足が深刻化するという悪循環に陥ります。農業は依然として家族単位で力を合わせる傾向があります。だからこそ、次世代の後継者が農業の労働環境の厳しさにばかり晒されないよう、いかにモチベーションを保てるようにするかを、個々の農家単位ではなく、地域や自治体、そして行政と、皆で考え支え合うことが求められています。
近年一層注目の集まる安全対策については、沖縄県の研修機関と連携し、オペレーター向けの安全研修を実施しています。また、JAとしても機械の安全操業を徹底するよう指導しています。
残念ながら、そういった取り組みを行ってなお、事故は発生しております。人身事故には至らずとも、トラクターの転倒や火災も発生することがあります。たとえ人命に影響がなくても、機械の損傷があればその損失は大きく、農家にとっても負担となるため、今後も油断することなく安全対策を強化していきます。
加えて、JA内の安全衛生委員会では、毎月の会議で安全対策を確認し、職員に周知しています。また、毎朝のミーティングを通じて、安全意識を高める取り組みも行っています。
製糖工場内でも、安全対策の周知を徹底し、事故防止に努めています。工場の稼働時には特に注意を払い、作業員の安全管理を強化しています。
沖縄各島で製造する黒糖は、SDGsの複数のゴールに親和性の高い特産品です。特に、ゴール7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」、ゴール12「つくる責任、つかう責任」などに対し、積極的にアプローチできる作物です。
まず、黒糖は加工度が最も低い砂糖です。使用するのは唯一サトウキビのみで、「無精製の砂糖」です。島の中で製造を完結することで、輸送エネルギーを抑制しています。
また、製造過程で出る、搾りかす(バガス)や灰、沈殿物を100%再利用しています。黒糖を煮詰めるボイラーの燃料や、サトウキビを育てる肥料などに使うことで、産業廃棄物の発生と重油の使用を抑えています。
サトウキビ自体が高温強光の環境下でも高い光合成力を発揮するC4植物として知られています。栽培することで、温室効果ガスを削減し、それ自体がエコな作物だと言えるでしょう。
サトウキビの作型には「夏植え」と「春植え」と「株出し」がありますが、近年は株出しが増えています。高齢化が進んだせいで、従来のように農家自らが植え替えを行うことが困難になってきたためです。また、作業の受託業者も減少し、植え付け作業自体の負担が増えています。そういった背景もあり、植え替え負担の少ない「株出し」が選ばれるケースが増えてきたのです。
今後は、労力のかかりにくい機械の導入を進めることで、収穫量を増やし、生産者の収益向上を図る方針です。品種改良の方針としては、株出しに適した品種への転換以上に、機械収穫・機械植付けに適した品種への移行が進んでいます。現在、8割の農家が機械収穫を導入していますから、機械に適した品種への転換を進めることで、作業の効率化が図れます。
ただし、株出しを繰り返すことで収量が減り、採算が合わずに離農する農家も増えています。この流れを食い止めるための対策も同時に必要です。
人材不足の解消に向け、外国人労働者を受け入れる動きが進んでいます。すでに現場では外国人労働者を受け入れており、工場でも活躍してくれています。今後も労働力の確保が重要になり、日本人労働者との比率も徐々に変わっていくことが予想されるので、グローバルな人材も、ローカルな担い手も、共に働きやすい環境を模索することは、サトウキビに限らずあらゆる農産業の場で重要になるでしょう。
SAFの原料としてのサトウキビを活用するか、黒糖向けに供給するかは、農家にとって負担がなく手取りが減らなければ、あまり重要ではないというのが正直なスタンスです。JAの使命は何より農家の所得向上であり、それが最優先されるべきだという考えです。その点が確保されていれば、SAF向けの取り組みも進められると考えています。
農家の方にとっても、収穫したサトウキビを工場に納めることが主な関心事であり、その後、それが砂糖になるのか、黒糖になるのか、SAFの原料になるのかは重点項目ではありません。
もちろん、今後SAF向けの原料のほうが高値で買い取られるようになるようなことがあれば、状況は変わるかもしれません。ただし、製糖事業は国からの補助を受けて運営されているため、その値段設定についても公平性を保つ必要があります。SAF向けの原料供給をどのように調整するかについては、行政とも協議しながら進めていくことになります。
また、SAF利用によってサトウキビ自体の価格が上がることを期待する前に、まずは工場ではまだ有効活用されていない副産物について検討するべきだとも考えられます。たとえば、バガス(搾りかす)を使った発電など、多角的な収入源を確保することで工場の収益を向上させ、その利益を農家に還元できれば、農家の収入向上につながると考えます。
まずは、補助制度の枠組みをどうするかが重要になってくると思います。SAFという言葉自体、農家にとってはまだ馴染みが薄いと思います。ただ、SAFの可能性を知ることで、新たな収益の選択肢として関心を持ってもらえるかもしれません。また、観光客の方々にとっても、サトウキビ畑を見たことがあっても、どのように育てられ、収穫されるかまでは知らない方が多いと思います。SAFに関する各業界の取り組みが、サトウキビの価値や生産の現場を知ってもらう機会になれば理想的です。
次の世代のために一歩前へ進みましょう。
皆様からのご連絡をお待ちしています