宮古製糖は、地域密着型の製糖事業を展開し、「農家と共に歩み、共に発展する」を企業理念に掲げています。
宮古島におけるさとうきび産業は、地域経済と生活を支える重要な基盤であり、農業振興会を通じた農家との協力体制や持続可能な生産への取り組みが特色です。
また、製糖業そのものをサステナブルな産業と位置づけ、SDGs達成に向けた工夫や課題解決に取り組んでいます。本レポートでは、宮古製糖の事業概要、新たな栽培手法や技術導入の現場の様子、さらに副産物の有効活用や未来のビジョンについて考察します。
企業名 | 宮古製糖 |
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所在地 | 沖縄県宮古島市 |
設立 | 1958年 |
従業員数 | 122名(インタビュー当時) |
宮古製糖の企業理念は「農家と共に歩み、共に発展する」。農家と共に歩むということは、特に生産現場では重要な理念で、宮古地区には「農業振興会」という組織があり、現場で発生した問題について速やかに協議し、解決に向けて取り組む仕組みがあります。
地域を支えるさとうきび事業を牽引する宮古製糖の取り組みについて、本項では触れていきます。
また、「製糖業そのものがサステナブルな産業である」という点でSDGsについても包括的な取り組みが見られました。
持続性を保つためにも、後述するような取り組みの中で生産量を維持することが第一だというのが同社の考えです。
宮古島のさとうきび農業において、新しい品種の導入に積極的な面が挙げられます。
育種委員会でサポートを受けながら、新品種の選抜試験を行い、正式発表を経て奨励品種を決めています。農家さん自体が新しい品種に対する意識が非常に高く、新しい品種が出るとすぐに試してみたいという反応があります。
また、試験的に育てた品種であっても、現場での評価が高まるうちに普及していることもあるほどです。これは他の島にはない傾向です。新しい品種が「これがいい」となると、一気に変わることがあります。その一例が、『農林27号』です。農林27号は見た目も美しく、葉っぱがさらさらと落ちるため、手入れがしやすく、直立型の茎をもつのが特徴的です。
新しいものが評価されるというわけではありません。
別の品種では、島の環境に適合していても、昨今力を入れている株出し栽培に向かないものもあります。個々の地域に適した奨励品種を選ぶことが重要だと考えています。
宮古島には大きな製糖会社として、宮古製糖と沖縄製糖の2社があります。両社の考えや取り組みは基本的には同じ方向を向いており、農業振興会のメンバーには両社ともが参画し、業務を共に進めています。
新しい農業用機を導入する際も、一緒に賛成して導入しました。次項で紹介する株出し栽培も双方で増えていて、単収(単位面積あたりの収穫量)をいかに上げるかという課題も共通しています。
競合する同業他社という面以上に、同じ土地で同じ産業を守るものとして協力していく意識が双方にあると感じられます。この協力しあえる風土が、沖縄、そして宮古島の製糖事業を支えているひとつの要素であることは間違いありません。
近年の大きな取り組みのひとつが、株を残したまま収穫を行う株出し栽培です。
これは生産量を維持するために20年ほど前から推進されてきました。当時は同方法を用いる耕地は55haしかありませんでしたが、現在では全栽培域の6割が株出し栽培となりました。残りは時期ごとに株ごと入れ替える「夏植え」が3割、「春植え」が1割という割合です。
導入時の最大の困難は、農家に株出し栽培を理解してもらい、実践していただくことでした。最初は株出し栽培そのものを実施している農家が少なく、また、機械で刈り取ることへの抵抗がありました。「ハーベスタで踏んだ畑から芽が出るのか」という疑問の声も多くありました。
農家の方々に「これをすれば楽になります」と口頭で説明しても理解は得づらく、実証し目に見える形で示す必要がありました。
そこで、農業振興会では試験的に小型の「株揃え機」を導入しました。19馬力程度の小型トラクター型の株揃え機を10数台導入し、ハーベスタのオペレーターに依頼し実証試験を行い、栽培方法を移行しても負担が増えないことを周知しました。また、実際に株出しの管理を収穫後1週間以内に行えば、発芽に影響がないことを周知し、理解を得るよう努めました。最初は関心が薄く、導入しても利用されない可能性がありましたが、試験導入の結果が良好であることが確認されると、徐々に農家にも普及し始めました。
その後、肥料散布、除草剤散布、農薬散布を含めた4種類の作業を同時に行える大型の株揃え複合管理機を導入し、さらなる生産性向上を図りました。
これらの取り組みにより、現場の導入時の心理的・物理的負荷をさげることに成功し、株出し栽培の面積は大幅に拡大しました。JAや農業研究センターなど関係機関とも連携し、現在では一定の生産量が維持されています。
また、前述の「農林27号」の普及も追い風となりました。
それまで選ばれていた「農林8号」や「NCO310」といった品種は株が非常に丈夫である一方、使用する強力な農薬は、土壌や地下水汚染の懸念から禁止されてしまいました。そのため、農薬に頼らず栽培でき、株出しにも適した「農林27号」が開発されたのです。
株出し栽培推進により生産量が維持できているため、今後は単収の向上が課題であると担当者は語ります。株出し栽培を3~4年続けると収穫量が落ちる傾向があるためです。これに対処するため行われているのが、補助金を活用して堆肥を畑に還元する取り組みです。
また、もうひとつの課題は肥料散布との相性の問題です。製糖工場の副産物であるバガス(搾りかす)が肥料として活用されていますが、株出し栽培では株が地上に残るため、肥料を散布しにくいという制約があります。この点をどう克服するかが今後の課題です。
単収を上げる工夫の中で、もうひとつ重視されているのがスマート農業の取り組みです。
高齢化が進む中で、ドローンによる農薬散布やGPSを活用した精密農業などが非常に有用とされています。ここでは実際にスマート化を進めるに当たり想定される課題などを、製糖会社の視点で検討いただきました。
ドローンやGPSを使ううえで共通する課題は、利用に資格が必要で、導入コストが高いことです。また、農家の年齢層が高いため、操作自体に対するハードルもあります。
そのために、後述するようにスマート農業における業務を委託したり、集約農業として行うという方針も検討できますが、宮古地域では「自分の土地は自分で管理したい」という農家さんが多く、また、集約することで個々の収入が減ることへの懸念から、消極的な傾向があります。
GPSを使えば、作業の効率が大幅に向上します。耕作幅を一定に保つことができ、小型トラクターが一定の速度で走行できるようになるなど、人力ではばらつきが出やすい作業も、GPSがあれば正確に進められます。
コストや技術面でのハードルを考えながら、何より現場の理解を得ながらの導入が望まれます。
GPS付きのハーベスタも試験導入されています。コストの面では、GPSを取り付けるハーベスタの台数が1社50台以上と非常に多く、全台数分を会社で負担することは難しいです。1台あたり年間約5万円のコストがかかり、19台分を導入していますが、費用対効果について慎重に見極めている段階です。
GPSの精度は高いものの、30センチ程度の誤差が発生することがあります。RTK(リアルタイムキネマティック)技術を利用すれば、誤差を1センチ程度に抑えられるため、基地局を設置する動きも進んでいます。
沖縄にはまだRTK基地局がありませんが、福井や宮城では県が整備を進めており、低コストで利用できるようになっています。
RTK基地局は農業用以外にも活用できますから、製糖会社や地域単位ではなく、行政として改革を推進していただくことが望ましいと考えています。政治情勢によって予算の付け外しがあるような状況ではなく、産業全体のことを見通した継続的なサポートが望まれます。
そういった物理的な課題の先に、現場の心理的な課題も存在します。たとえば、ハーベスタにGPSをつけることを農家さんに提案しても、「監視されるようで嫌だ」といった声が上がります。
農業の「見える化」を目的とした農家の畑情報や単収、栽培方法などのデータを登録する仕組みについても普及を進めていますが、これも何より現場の理解を得た上で有効に管理することが重要だと考えます。
伊良部工場などでは、試験的に導入されていると聞いていますが、その一方で、個々の農家への登録作業はまだ進んでいません。農家から国への申請書類と現場の地番が異なっていたり、貸し借りによる名義変更が必要だったりと、実務段階で丁寧な対応とサポートが求められ、時間がかかっているようです。
個人向けの補助は現在行われていませんが、法人がドローンや植え付け作業に用いるビレットプランターを導入して受託作業を進めている例があります。しかし、金額設定に悩むケースが多いです。
本来は組織間で金額を統一して提供されることが農家側としては望ましいが、それが価格カルテルと見なされる可能性があるため、慎重であることも求められます。農家としては当然価格が安い方が良いですが、受託組織としては収益がなければ持続できないという二律背反の課題もあります。
現在同社は宮古島市と連携し、地域ごとに簡易的な肥料工場を設ける取り組みを進めています。試験段階ですが、主にバガス(製糖過程の搾りかす)を活用した肥料を作っています。廃棄されるものをいかに効率的に活用するかという「製糖事業自体のサステナビリティ」について紐解きます。
バガスからなる肥料を普及するうえでも、重要なのはやはり農家にとって利用しやすいコストが実現できるかという点です。そのためには、いかに手間をかけず生成コストを抑えた肥料が製造できるかということが肝要です。
工場からはバガスの他にフィルターケーキ、糖蜜といったさとうきび生成過程の副産物が出ます。これらを活用した肥料作りを模索中ですが、混合して加工するほどコストがかかるため、どのように価格を設定するかは現場のニーズをよく検討する必要があります。
また、その肥料も大量に作ると余剰が発生してしまうため、今度は余剰バガスの問題と向き合う必要も出てきます。
現在、バガスは主にボイラーで燃料として利用していますが、それを超える量のバガスが発生しています。余剰分は畑に散布していますが、積み上げて一時保管するための畑を貸してもらう形で対応しているのが現状です。肥料としてのバガスを土壌に混ぜるためには大型機械が必要ですが、そのための車両リース費用が高額になります。それが理由で余剰バガスが増え続けている状況です。
宮古島の農家の多くは兼業農家で、肥料散布用のマニアスプレッダーの台数も不足しています。地方自治体や関係機関で検討は進めていますが、組織的な対応が進んでいないのが現状です。
これを、家畜の飼料として活用する可能性についても検討していますが、いくつかの課題があります。過去に同社や提携先が飼料工場を運営し、バガスともみ殻を加熱処理した飼料を製造していたこともありますが、売れ行きが伸びず、工場の継続は難航しました。
飼料としての利用が進まなかった理由として、さとうきびの葉のふちにあるトゲが家畜の喉や胃に引っかかり、消化の妨げになったことが挙げられます。しかし、近年では輸入飼料の価格が高騰しており、農家側の事情も変わりつつあります。そのため、再び飼料としての利用に関心が寄せられている状況です。
現在、一部の農園から飼料活用について問い合わせを受けています。発酵バガスを活用した海外の事例が増えてきたことで、それが九州にも広がっており、再利用の可能性を模索しているところです。
バガス等活用先として、現在国内の航空各社はジェット燃料関連の実験のためにサトウキビを原料とするSAFの話に興味があります。
SAFについて、初めて知ったとき、本当に新しい発見だと感じたと担当者は振り返ります。天ぷら油やミドリムシをエネルギーの原料として、「こういうものが作れる」と説明を受けた際、余剰となって処分に困る副産物の有効利用という側面も強く感じたそうです。
現在は、SAFの実用化に向けた取り組みにおいて、鹿児島の工場に一部の副産物を運んでいます。しかし、数量が決まっているため、全量を引き取ってもらうのは難しい状況です。また、余剰となっているのはバガスだけではなく、稼働中の脱葉処理施設から出るトラッシュ(葉の残渣)についても、処分に苦労しているとのこと。一部は土壌改良剤として運び出し、発酵させることで活用していますが、それでも一製糖期あたり10トンダンプ1000台分ほどの量が発生します。
このトラッシュやバガスについては、大学や企業も活用の方向性を模索しており、同社に訪問してこられることもあります。その中で、固形燃料を作る企業が都内に拠点を構え、引き取りを進めたいという話もあり、将来的には、燃料化や肥料化をさらに進めるため、他企業と連携して取り組む予定です。
また、トラッシュはバガスと違い、3~5年置かないと発酵や腐食が進みません。フィルターケーキはすぐに畑に漉き込むことができますが、トラッシュは長期間固いままなので、容易に漉き込むことができません。
こういった発酵を進める技術も含め、多様なベクトルからの技術の向上を集積させ、副産物の有効活用、そして新たなエネルギー開発が進むことが理想です。
最後に、会社としての長期的なビジョンについては「今ある形をどう継続していくかが重要だ」と担当者は語ります。
「単収を下げることなく、農家あっての製糖工場という認識を持ちながら、農家の生産意欲を高める取り組みが不可欠です。
地域全体で農業に取り組むことで、会社の存続も可能になると思います。この点は、皆が肝に銘じています。」
企業と地域、自然とひとが密接に結びつく宮古島の製糖産業を背負う思いが、これから先どのような展開に繋がっていくのか、一層の注目が集まることでしょう。
次の世代のために一歩前へ進みましょう。
皆様からのご連絡をお待ちしています