【取材記録】北限の島でサトウキビを軸とする持続可能な地域構築への挑戦
サトウキビコンサルタント 杉本 明 氏
(取材日:2024年12月8日@西之表市)
杉本氏は1949年東京都八王子市生まれの75歳。1975年に東京教育大学(現つくば大学)大学院農学研究科修士課程を修了(育林学)し、1979年から沖縄県農業試験場八重山支場で、サトウキビ栽培研究に従事。1986年に熱帯農業研究センター沖縄支所(現国立研究開発法人国際農林水産業研究センター熱帯・島嶼拠点)、1992年から九州農業試験場作物開発部サトウキビ育種研究室長、独立行政法人九州沖縄農業研究センター作物機能開発部部長などを歴任。現在はサトウキビコンサルタントとして活動している。
杉本氏は、国内外でサトウキビに関する講演や指導、大学等での講義を行っている。また、学術論文の執筆や専門誌への寄稿する一方で、2000年に「サトウキビの絵本」を出版し、サトウキビの利用法、有用性、栽培方法、品種、砂糖の精製、砂糖を使ったおやつの作り方などを、子どもにもわかりやすく丁寧に解説している。
南西諸島とは、鹿児島県の種子島以南の島嶼地域と沖縄県全域を指す。サトウキビの栽培には温暖で十分な日照が必要なため、日本では南西諸島がサトウキビの主な生産地となっている。
各島によって、サトウキビ生産の規模や仕様も異なり、比較的生産量の多い島には、砂糖の原料となる粗糖を生産する製糖工場が立地しており、南西諸島全体で14の島に併せて16の工場が稼働している。
南西諸島では、製糖工場を中心としたサトウキビ産業が地域を支える重要産業になっている。
南西諸島のサトウキビを生産する農業経営体は、サトウキビを専門に比較的大きな経営規模の農家、サトウキビと他の作物を生産する農家、作業の大半を外部委託する小規模農家や兼業農家など様々である。また、島によって地形や土壌の条件も異なり、圃場の大小、傾斜の緩急など、取り巻く自然的環境、社会的環境もまた多様である。
最も北に位置する種子島は温帯性気候で、場所によっては霜が降りるなどサトウキビの産地としては気温が低く、砂糖の原料となるショ糖の蓄積は他の島に比べ少ない。奄美大島以南は亜熱帯海洋性の気候であり、夏は台風や干ばつの被害がある。土壌は、種子島がサトウキビの生育に適した黒ボク土が多く、喜界島は隆起サンゴの島、奄美大島は暗赤色土と黄色土多い。沖縄の各島には国頭マージ、島尻マージ、ジャーガルという3種類の土壌があり、それぞれサトウキビの生育に与える影響も異なる。
また、南北大東島は圃場整備が進み、農家1戸当たりの経営規模も大きく機械化も進んでいるが、島の位置や地形から干ばつや台風の被害を受けやすい。喜界島も圃場整備や機械化が進み、こちらは地下ダムによるかんがい施設も整備されている。石垣島や宮古島でも、機械収穫の割合が多いが労働力が確保しにくいといった事情もある。
種子島や石垣島はサトウキビ以外にも水稲や甘藷など、様々な作物が栽培されているが、南北大東島や喜界島は圃場の大半がサトウキビ畑となっている。
このように、南西諸島は広大な海域に広く散在し、気象や土壌などの自然環境、さらにサトウキビの生産を取り巻く社会的環境がそれぞれ異なっているため、地域の実情に寄り添った取り組みが必要である。
サトウキビは、強風に対して比較的強い作物であり、台風や干ばつなどの厳しい自然環境にある南西諸島においては、欠かすことのできない基幹作物である。
また製糖産業を中心とするサプライチェーンで多くの雇用を創出するなど、経済面で高い人口涵養力を発揮し、モラセスやバガスなどの副産物を活用したエネルギー、肥飼料の生産など、多面的な付加価値を生み出している。
環境面でも、サトウキビ栽培を適切に管理することにより土壌流出を抑制したり、有機物を圃場に還元することで地力を維持し、化学肥料の使用量を低減することが期待されている。
日本のサトウキビ産業の労賃単価の高さは、人口涵養力の高さを示すものであるのと同時に、産業の競争力としてはネガティヴな側面を持つ。面的拡大が困難な島嶼地域において、規模拡大によるコストダウンには限界がある。そこで、空間的・時間的拡大、つまり単位収量を高めることによって土地利用を高度化する、あるいはカスケード利用によってサトウキビを高度利用することも重要である。
日本の単位収量は、世界平均の7t/10aよりも低い6t/10a程度である。また、サトウキビ栽培において苗からサトウキビを得る「新植」と、「株出し」と呼ばれる、収穫後の切り株から芽吹くひこばえからサトウキビを得る生産様式とがある。大規模栽培が特徴のブラジル、オーストラリア等でも5~7回程度は継続されるのに対し、日本では株出しの回数は0~2回のところが多い。
さらに、日本では製糖工場の大半が砂糖だけを商品としているが、世界の主要国では、砂糖、エタノール、電力が常識的な商品構成である。日本における原料当たり価値創出は世界的には低水準であると言わざるを得ない。このように、サトウキビの収穫量を増やせば良いというものではなく、農業分野だけではなく、他の業界も巻き込んで、様々な知恵を持ち寄り、持続的な発展について考える必要があるといえる。
その際、理想論だけが先行し現実との乖離を生じさせるような解決策ではなく、粗々でも、より良い手段を試行錯誤していきながら、庶民の知恵を生かすような思考、行動が求められていると思う。目的と手段のバランスが大事で、経験豊富な農家が持つ、「なんとなく当たっている勘所」に科学的エビデンスを付加していく努力も必要ではないかと考える。
サトウキビ産業を次世代から見て魅力的な産業にするため、産業の一層の高度化が必須である。
既存の製糖産業の範囲内で考えた場合、省力的・軽労的な方法で安定多収栽培を実現するための機械装置、およびそれらを利用した栽培体系と適応性の高い品種が必要であると述べた。さらに製糖産業の範囲にとらわれず、バガスや糖蜜などの高度利用を実現していくうえで、SAFなど新しい用途の拡大と、そのサプライチェーンに関わる企業や研究機関等が持続可能なサトウキビ産業を考える、議論の場に参画してくれることが期待される。そのうえで、自然環境、社会的環境が多様に異なる南西諸島のそれぞれの島の事情を踏まえ、SAF等の新規用途導入の是非や必要な支援について議論を行うべきであると考える。
平成3年に登録された農林8号(NiF8)は、高糖含量で多収、かつ病害抵抗性に優れた歴史的名品種で、南西諸島で広く普及した。しかし近年、人口減少、農業の担い手不足、そして市場の変化や地政学的リスクの増大など、南西諸島のサトウキビを取り巻く環境は劇的に変化している。NiF8は手間のかかる品種であるため、省力栽培に適した品種が求められるようになった。
これまで杉本氏は、サトウキビが本来持つ旺盛な生育や強靭性を生かすため、サトウキビ野生種(S.Spontaneum)の遺伝子を取り込んだ新品種の開発に取り組んできた。
その成果は平成31年に登録された、高バイオマスサトウキビ「はるのおうぎ」に引き継がれている。現在、はるのおうぎは新光糖業の理解と協力を得て種子島で栽培が広がっている。はるのおうぎは株出し栽培に適した多収品種で、NiF8よりも多くのバガスを産出するため、バガスのより一層の活用など、新光糖業を中心に東京大学なども参画し、農工融合型思考による新たな農業技術開発が進んでいる。このように、サトウキビ生産(農業)と砂糖生産(工業)が一体となった製糖産業において、品種開発とSAF等の新規用途開発が一体となって産業の発展に貢献することを期待する。
次の世代のために一歩前へ進みましょう。
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