近年、地球温暖化やエネルギー問題への対応が求められる中、再生可能エネルギーの活用が重要性を増しています。
航空業界においては持続可能な航空燃料(SAF: Sustainable Aviation Fuel)が注目されており、原料として食料生産と競合しない資源の活用が1つの鍵となっています。
本レポートでは、北海道を拠点とするホクレン農業協同組合連合会(以下、ホクレン)が展開するてん菜事業に焦点を当て、てん菜を原料としたSAFの実現可能性についてお話をお聞きしました。
ホクレンは1919年に設立され、北海道の農業協同組合における経済活動を担う連合会として、北海道農業の発展を牽引してきました。現在、ホクレンは「販売」「購買」「営農支援」の三位一体を柱とした事業を展開し、農業従事者を支える総合組織です。2024年時点の事業取扱高は約1兆5700億円、職員数は約1800名に上り、北海道内外で幅広い活動を展開しています。
ホクレンの事業は、北海道産の農畜産物の集荷や加工、販売に加え、農業に必要な資材の調達と供給、さらに生産者を支援するためのさまざまな取り組みを行っています。
特にてん菜事業は、北海道農業の特徴を活かした事業であり、地域の基盤を支える重要な役割を果たしています。
日本最大の農業生産地である北海道の中でも、生産量が最も多い農産物がてん菜であり、年間約400万tの生産を誇ります。
北海道の冷涼な気候と広大な農地はてん菜の栽培に最適であり、道内の7つの製糖工場で年間約55万tの砂糖を製造し、国内砂糖需要の約30%をてん菜由来の砂糖で賄っています。
また、北海道の一般的な輪作体系は「てん菜→大豆→ジャガイモ→小麦」のサイクルです。
てん菜はこの輪作体系において、土壌改良、病害虫防除、環境負荷の軽減といった観点から重要な役割を果たしています。
てん菜から砂糖を製造するプロセスは、収穫されたてん菜を洗浄・截断し、温水に浸して糖分を抽出することから始まります。その後、抽出液をろ過し、不純物を取り除いた後に糖液を結晶化させ、砂糖として取り出します。
この一連の工程で発生する廃糖蜜やビートパルプなどの副産物は、家畜用飼料や土壌改良材として再利用されており、廃棄物を出さない循環型の生産体制を実現しています。
さらに、最新の製糖技術の導入により、砂糖生産の効率化を進めています。具体的には、エネルギー効率の向上や副産物のより高度な活用方法の開発が進められており、製糖工程全体の環境負荷低減を目指して取り組んでいます。
道内に種子工場と2つの製糖工場を有し、菓子や飲料の原料となる業務用や一般家庭用など、用途に合わせた各種製品を生産し、全国へ出荷しています。
オホーツク地区・斜里町にある中斜里製糖工場ではグラニュ糖を製造し、十勝地区・清水町にある清水製糖工場では、グラニュ糖のほか、上白糖、てんさい糖を製造しています。
品質管理面では、食品安全マネジメントシステムFSSC22000(食品安全管理の国際規格)を認証取得するなど「顧客満足」を基本として、常に安心して使える商品を提供しています。
また、労働安全衛生マネジメントシステムISO45001を導入し、働く人の安全及び健康確保に向けた職場環境整備の強化を図っています。
てん菜事業は、人口減少や砂糖需要の縮小といった市場環境の変化に直面していますが、北海道農業の輪作体系維持にてん菜は重要な作物です。
他にも課題としては、砂糖製造工程で発生する廃糖蜜は、飼料添加や肥料接着剤などに利用されていますが、利用量が限られており安価であることから、安定的で付加価値向上となる利用方法の構築が求められています。
今後、てん菜事業の持続性を確保するためには、砂糖および副産物の新たな利用方法の開発や市場の多角化が必要となっています。
ホクレンは過去に「バイオ燃料地域利用モデル実証」の国からの支援を受け、北海道バイオエタノール株式会社を設立し、バイオエタノールを製造する事業に取り組んでいました。この事業では、てん菜含めた様々な余剰農産物を活用し、地域経済の活性化や再生可能エネルギー供給システムの確立を目指しました。
技術面は問題なく、年間1万kL以上の製造を達成しておりましたが、安く大量に輸入される海外のバイオエタノールに対し、価格競争力が低く事業の経済性が課題となり、撤退を余儀なくされました。
持続可能な北海道農業を実現するために下記5つの要素を掲げています。
ホクレンは、てん菜製糖工場において、製糖過程で生じるビートパルプやライムケーキ(石灰)などの副産物を家畜飼料や土壌改良材として再利用しています。この循環型の取り組みにより、廃棄物を削減し、持続可能な資源利用を実現しています。
また、てん菜は輪作体系の中で土壌改良や病害虫防除にも寄与し、環境負荷の軽減を目指しています。
トラックドライバー減少による輸送車両不足に対応するため、2つの工場間に中間受入場を設置し、より少ない車両台数での効率的な輸送体制を構築しました。2024年の法改正に伴う車両確保がさらに厳しくなる見込みに対し、輸送車両の大型化で効率的かつ安定的な輸送を目指しています。
微細藻類は炭化水素を大量に生産するため、バイオ燃料資源として期待を寄せられています。新エネルギーに関する調査研究として、製糖工場から産出されるてん菜廃糖蜜を用いて微細藻類の培養し、その藻類から油脂を製造する共同研究を東京大学等と進めています。
社会実装可能な製造方法の開発・確立を目指し、食料と競合しないかたちで、低炭素・循環型社会の促進と北海道農業の新たな価値創出が期待されます。
前述のとおり、ホクレンではてん菜から産出される廃糖蜜を利用し微細藻類の大量培養を実現させ、その藻類から油脂を製造する技術の研究を進めています。
バイオエタノールの課題の一つに燃料(直接混合を除く)として利用するには重合化等の処理が必要になりますが、藻類油脂は直接油脂として利用することが可能です。この藻類油脂からSAFを製造できるようになることは地域経済の活性化や雇用創出、環境負荷削減など多方面にわたる効果をもたらすと考えられます。
また、さらに広い視点から下記のようにもお話しされました。
SAFを様々な原料や手法で国内生産を目指すことは、北海道だけでなく離島地域の経済維持や雇用創出に貢献できる可能性があり、食料安全保障や国防の観点からも非常に意義があるのではないでしょうか。
てん菜から生まれる砂糖
次の世代のために一歩前へ進みましょう。
皆様からのご連絡をお待ちしています