製造業の省エネの第一歩

統括研究員 谷川大致
監修・執筆統括研究員 谷川大致
製造業の省エネの第一歩

多くの企業は事業存続をかけて、本気で省エネ対策にのりだしています。しかしどこから手を付けるべきかわからず、思うように省エネ対策が進まない企業もいるようです。そこで今回は、製造業における省エネ対策の第一歩としてやるべきことをお伝えします。

まずは4つのポイントから始めましょう

多くの企業は、これまでに「温度設定を変える」「開口部の開け閉めはこまめに行う」など、基本的な省エネ対策は実施してきていたはずです。さらなる省エネを目指す場合は、以下のポイントを押さえて進めていくといいでしょう。

「誰が」を決める

まず「誰が」省エネ推進の責任者となるか決めます。よくありがちなのは、トップが省エネ対策のルールを決め「みんなで守りましょう」と周知する方法ですが、これでは責任の所在が曖昧となってしまいます。「誰が」省エネ推進のリーダーとなるのか、しっかりと決めておくことが大切です。

責任者を決める際は、エネルギー関連の知識の有無は関係ありません。むしろ知識がなくても、役職に関わらず「この人を助けたい」と思わせる人物が適任です。企業によっては剛腕な部長かもしれませんし、右も左もわからないけれど人に愛されている新入社員かもしれません。企業の風土を考慮して、旗振り役を決めていきましょう。

チームをつくる

責任者が決まった後は、省エネ推進チームを作ります。省エネ推進は、全ての部門に関連したプロジェクトでもあります。普段の仕事を抱えながら部門の垣根を越えて進めなければならないため、1人では限界があります。たとえば製造現場同士の情報は得やすいですが、製造部門と経理部門では多くの場合、働く場所も勤務態勢も異なるため各部門の情報整理も困難です。そのため垣根を越えたチームづくりが必要となるのです。

目標を明確化する

省エネ推進チームを結成後は、目標を明確にします。理由は目標があるからこそ「目標達成」という意識が生まれ、成果の評価がしやすくなるためです。人は目標がなければ小さな改善で満足しがちです。目標を目指すことで、目標に到達するための道筋が生まれ進むべき方向が見えやすくなります。目標が達成でき正当に評価されれば、さらなるやりがいにつながるでしょう。

ではどのような目標が適切なのでしょうか。目標は企業の経営状況に左右されるため、企業により異なりますが、製造業の場合「年間1%エネルギー削減」などがよく目標に挙げられます。企業への大きな貢献となるうえ、士気にもつながるため、ぜひ目標立てはしっかりと行うようにしましょう。

投資額の目安を決定する

目標を決めた後は、どこまで投資できるか「投資額の目安」の設定をします。目標と同様、投資額の目安設定も、企業の業績によって異なります。利益が大きく出ている状態では、将来の景気後退を見据えて想定の倍額を投資にまわすなど企業の業績や社会情勢を考慮して決定します。企業の経営状態によっては、お金をかけずにできることから始めたほうがいい場合もあります。総合的に判断して決めていきましょう。

また投資は「お金」だけではなく「時間」も念頭に置く必要があります。省エネ推進担当者には「本来の業務の空いた時間に進めてほしい」といった曖昧な表現で依頼をするのは得策ではありません。 迅速な対応は望めません。省エネ対策に取り組むべき時間を、あらかじめ決めてあげると集中的に仕事ができて効率的です。

現状を知ることで「費用対効果」がわかる

4つのステップが終わると、いよいよ具体的な施策に取り組むこととなります。経済産業省 資源エネルギー庁の「省エネポータルサイト」などでは、さまざまなノウハウが発信されています。実際にノウハウを活用して、企業の方針に合った省エネ対策を実施します。

なかには「無料で省エネのお手伝いをします」という自治体も存在します。しかし多くの場合、相談しても「御社の現状がわかる資料をお持ちください」と言われてしまうケースがあります。

また自社で調べて設備投資をすることになったとしても、費用対効果がわからないため何を選択すべきか迷ってしまうこともあります。このような状況はなぜ起こるのでしょうか。

それは「現状を把握」していないためです。

現状がわからなければ、正確な費用対効果が得られるわけもありません。ましてや第三者に現状を説明することも難しいでしょう。現状を知ることで、もしかしたら少額の費用で高い省エネ効果が得られる可能性もないとは言えないのです。

では、ここでいう「現状」とは、何のことでしょうか?

多くの人は「年間のエネルギー消費量や月々の請求内容」を思い浮かべるかもしれません。ここでいう「現状」とは、それだけではありません。今まで以上の省エネ推進を行いたいならば、以下の「現状」を知り、整理する必要があります。それぞれチェックしていきましょう。

エネルギーの種類を把握する

まず自分たちの企業が、電気やガス、石油などのエネルギーをどれくらい使用しているか把握します。「そんなことは当たり前にやっている」と思われる方もいるかもしれません。しかしこちらを把握していなければ、ガスを多く使用する企業が電気代ばかり気にして、あまり成果が出ない事態になりかねないのです。

そのため企業全体のエネルギー使用状況を把握しておく必要があるのです。

全ての機械を把握し「設備マップ」と「エネルギーマップ」を作る

エネルギーの種類が把握できた後は、どのような機械や機器を使用しているか全てを洗い出します。普段は登場しない季節物の機器から、工場の機械まで使用頻度も大きさも異なる全ての機械類の使用状況を確認していくのです。

資産台帳で確認ができるものもあります。中にはきちんと表記されておらず見つけられないものもあるかもしれません。その場合は、中古や安く譲ってもらったなどの理由で「消耗品」として購入している場合もあるので、そちらも確認してみましょう。

また要注意なのが、大きな機械に付属している消耗品類です。大きな機械のほうは既に処分し、違う機械を使用しているものの付属品だけが生きているケースが考えられます。

このような場合も想定して、全ての機械がどのように使われているか調べていくわけです。「仕様書を見れば、すぐにわかるのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし仕様書が紛失している場合もあります。「見ればわかる」では終わらないケースが多いのです。

洗い出し終了後は、その情報をもとに現場を歩きチェックしながら、2つのマップを作っていきます。1つ目は、工場の平面図に、どのような機械類が配置されているかを記した「設備マップ」。それができましたら、エネルギーがどのルートで、どのように供給されているか、圧力や温度などを調べその条件を記していく2つ目のマップ「エネルギーマップ」を作成します。

このような作業を、全部門行うため横断的なチームづくりが重要となるわけです。

なぜ「エネルギーマップ」が必要なのか?

そもそも、なぜ設備マップのほかに、エネルギーマップが必要なのでしょうか。工場などでは、様々な機械を使用して商品を製造しているため、最新のエネルギーの流れを可視化する必要があります。たとえば30年経った工場には、30年前の図面があるかもしれません。しかし30年前の機械を使っているかというと、同じ物を使っていないことが多いものです。何らかの理由で新しくしたり、部品を入れ替えたりしています。その都度、工場全体の配線などがわかる図面を書き換えることは少ないため、配線が入り組み誰もが的確に配線の状況を理解できなくなってしまうのです。わからなくなると、人はそこに手を付けるのを躊躇います。何がどこに影響しているかわからず「これを触ると、工場全体が止まるかもしれない」と思い触れられなくなるのです。エネルギーマップの作成は、そのような事態を防ぎ、最小限のエネルギーで施設を稼働させることが可能となるわけです。

エネルギーのトレンドを知る

次はトレンドを測定する段階となります。ここでいう「トレンドを知る」とは、時間ごとにどれくらいのエネルギー消費量があるかを知ることです。たとえばご家庭で調理をする際、火力は常に「強」を使用しているわけではないでしょう。火力を強くしたり、弱くしたりしながら料理を作っていくのが通常です。冷暖房においても同様です。使う状況によってエネルギーの消費量が異なるため、時間ごとの消費量を知る必要があるわけです。それを把握しなければ、適切な省エネ方法を選択できません。そのためにエネルギーのトレンドを知ることが大切なのです。
トレンドは、省エネ支援機器を使って、電力、電圧、電力量、力率などの各種電力要素を計測することで確認できます。

省エネの第一歩「現状把握」は3カ月が目安

省エネの意義は多くの人がわかっており、家庭でも行っているでしょう。しかしなかなか進まないのは、「現状把握」ができておらず費用対効果が不明な点にあります。

現状把握には部署間の協力が不可欠です。だからこそ部署の垣根を越えたチームづくりが大切になるのです。

現状把握はとても時間が掛かりそうに見えますが、あまり長い時間を費やしてやるものではありません。3カ月を目安として、行いましょう。

企業はぜひ「5年後、10年後にはこういう会社になっていたい。そのためには 省エネをこれだけ進めていきたい」と企業としての方向性を社員に共有し、省エネを推進するためには「現状把握」がマストである旨をチームや関係する部署の人に伝えていくことも大切です。

道筋が見え思いが伝われば、人を動かします。ぜひ現時点以上の省エネ推進を目指して、企業の発展に役立ててください。

次の世代のために一歩前へ進みましょう。

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