工場の省エネに挑む、「部署横断型省エネチーム」

統括研究員 谷川大致
監修・執筆統括研究員 谷川大致
工場の省エネに挑む、「部署横断型省エネチーム」

製造業に従事している方や、工場を稼働させている方にとって、省エネというキーワードはずいぶん身近になった一方で、少し耳が痛い難題であることには変わりないのではないでしょうか。
やるべきことが散らかり、どこから着手すればいいのかわからない…。そんな現場の声を耳にすることも多く、費用対効果を洗い出すことが難しいために改善すべきことがわかっても稟議を通すのが難しいというケースもあります。

本コラムでは、工場における省エネを実現するためのステップを、自社工場のエネルギーマップを描くという観点でご紹介します。農業分野の事業を有し、自社に工場を持つ方はもちろん、他業種の工場省エネにおいても本コラムで紹介するヒントは役立ちますので、ぜひご一読ください。

工場における省エネとは

製造業の使命・目的は、当然モノを作り出すことにあります。その一方で、モノづくりのために必要なエネルギーは年々高騰しており、どれだけ売り上げを上げても、エネルギー経費はじわじわと利益率をむしばんで行きます

多くの経営者がすでに省エネに取り組む必要性を重視し、ごみの排出削減やこまめな節電などといった省エネの第一歩の声かけは、社会的にも浸透してきているところです。しかし、もっと大規模な、たとえば配管工事を必要とするような省エネを行うとなると話は別で、着手のハードルが高く、担当者を置いても十分な改善に至らなかったというケースも耳にします。

工場診断を行った上での省エネ施策は多岐に渡りますが、ここで一部を参考にご紹介しましょう。

最もわかりやすく効果が高いのが、蒸気配管の保温です。配管を保温するのは、施設園芸の二重カーテンと同じ効果だと考えていただければわかりやすいでしょう。二重カーテンであれば取り付けない判断をすることはほとんどないでしょうが、これが配管となると未知の領域に感じるかもしれません。しかし、構造と重要性は同等です。

他にも、以下のようなものはイメージがしやすいのではないでしょうか。

設備の容量選定

圃場にあわせた馬力のトラクターで耕す発想と同じです。馬力がふさわしくないと、機械がどれだけ良くても非効率になります。

コンプレッサーの圧力設定

動力噴霧器の散布圧力設定と同様。高めると噴霧量が増して、作業が早くなるように思えますが、その逆、粒径は細くなり飛散しやすくなりやはり非効率です。コンプレッサーの圧力設定が高すぎると利用する圧縮空気の使用量が同じでも電力を余計に消費してしまいます。しかも、圧縮空気ラインに漏れ穴があると、漏れてしまう量が増えてしまいます。

現在は自治体などが無料で工場診断やコンサルを行ってくれる仕組みも存在します。無料なのですからぜひ依頼を、とオススメしたいところではあるのですが、そこには大きな壁が発生することが多いのです。

省エネ施策が足踏みする理由を知る

いざ無料診断の依頼をしてみると、専門家はまずこう言います。「現状について教えてください」と。

ここで言う現状は、比較的手配のしやすい年間・月間の伝票などにとどまらず、工場機械の配管図面なども求められます。図面図面…と、工場を設立した際の資料を引っ張り出して、皆様は気づくでしょう。今はもうこの図面通りではない、ということに。

社会の動きにあわせて機械を更新したり、現場で作業する方々の意見で動線を改善したり、資産台帳は管理していても例外的なパーツが残っていたり廃棄されていたり…。そんな風に配管や電気配線は更新されていて最新の図面がない!という壁にぶつかります。

省エネ施策を実施するためには、経営陣としては費用対効果が見込めることが必須条件であるのに、効果、つまり現状と理想の差をはかるための「今の状況」がわからないことで、足踏み状態になってしまうのです。

まずやるべきは現状を把握すること。これが提示できないと専門家も着手することができません。もちろん費用をかければその洗い出しも専門家がやってくれるかもしれませんが、そのための予算を取るためには費用対効果の算出が必要、という堂々巡りに陥ってしまいます。

カギを握る「部署横断型省エネチーム」

まずは最新のエネルギーマップを描く。
この最も重要で、しかし決して容易ではない省エネの下ごしらえをするにあたって、本コラムでは部署横断型省エネチームを社内に作ることをお勧めします。

現場はもちろん、経理などのバックオフィス部署も含め、複数の部署から省エネリーダーを選抜し、チームを作り、チーム単位で省エネ・エネルギーマップの作製に臨むのです。

担当者を個人ではなくチームにするのは以下の3つの理由が挙げられます。

  • 自分の部署の情報までしか収集できず、1部署に改善がとどまってしまうのを防ぐ。
  • 他部署にアプローチ、依頼する心理的負担を減らす。
  • 全体最適のための情報共有をスムーズにする。

省エネ担当者を1人置く、という事例はすでに散見されていますが、上記の理由によって部分最適にとどまりがちなのが現状です。

チームメンバーは、必ずしも自分の部署のすべてを理解している人間でないといけない、ということはありません。
省エネ施策において最も重要な資質は「この人なら応援したくなる」と周りに思わせる力だと考えます。こまめな節電、ちょっとした設定の変更など、機械を新しく入れれば済むというわけではなく、省エネは日々の運用を最適化し続ける必要性がありますから、最終的にはチームを超えて全社員の努力と協力が必要になるためです。
チーム施策が成功した事例では、部署の省エネリーダーが新入社員だったケースもあります。(もちろん、チームバランスのためにベテランメンバーを含むことも必要です。)

部署横断型省エネチームを立ち上げたら、経営幹部であるあなたがすることは彼ら彼女らにチームが活動できる時間を与えることです。月に1日、難しければ半日でも、「今日は省エネのことだけを考えて動くぞ!」とチームが活動(定例会や現場調査)をできる状況を作ります。

そしてチームがエネルギーマップを描き、配線や各機械をどんな風にどんなルートで使っているのか、時系列ごとに整理する。そうすると、大きすぎて非効率な機械を持っていることや、コンパクトだが出力が安定せずエネルギーの無駄遣いをしている機械があることなどが次々目についてくるでしょう。

そうしてどこに課題があるのか、どこが根っこの部分なのかというのを把握すれば、次のステップとして無料の専門家を呼ぶことができます。「現状」が把握できているのですから、効果が算出でき、予算を手配できます。

そういった横断型のチーム作りが社内で初めてである場合は、メンバーの選定や定例会の運営、会の中で何から手を付けていったらよいのかというコンサルティングを中小企業診断士に依頼するのもひとつでしょう。
ここまでの省エネの「壁」と「鍵」、そして完全に外注する際のコストを考えると、チーム作り・運営への投資は有効な一手です。

まとめ

ここまでの流れをまとめると、以下のようになります。

  1. 自社内で部署横断型省エネチームを立ち上げる※その際、運営やチーム作りに不安がある場合は中小企業診断士などに相談する
  2. チームが活動できる時間を経営陣が作る
  3. チームが最新のエネルギーマップを描く
  4. そのマップを持って、無料の自治体などの工場診断を依頼する
  5. 診断に基づき、施策を行う

持続性・継続性が必要な省エネ施策ではありますが、一度エネルギーマップを描けば、そこからは「チーム」でそれを更新していけますから、ゼロベースで調査をする必要はなくなり、継続負担がぐっと抑えられます。

自社の現状を知るという最も身近で難解な課題を、コストを最小限にしながら実施できるのがこの方法の魅力です。ぜひエネルギー施策を検討する際は、参考にしてみてください。

次の世代のために一歩前へ進みましょう。

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