農業は全産業と比べて危険な現場、農協やメーカーから始められる安全施策

統括研究員 谷川大致
監修・執筆統括研究員 谷川大致
農業は全産業と比べて危険な現場、農協やメーカーから始められる安全施策

どんな仕事でも危険があり、注意しなければ死亡事故につながってしまいます。それは農業でも同じです。

2021年の農林水産省の調べでは、農業作業中に発生した事故が原因で亡くなったのは242人。一見少ないと思うかもしれませんが、農業従事者10万人あたりの割合では10.5人と高率です。

全産業の平均は約1人、危険作業と思われる土木業でも約5人。農業はその倍の数値になっているのです。

死亡事故を起こしてしまうと、犠牲となったご本人・ご遺族だけでなく、雇用していた農業経営者の心が折れて離農するケースが多々あります。これを防げるのは、農協や農機メーカーのような「外部の視点」を持った第三者のアドバイスです。

よくある危険と、現場のヒヤリ・ハット

実は、農業のさまざまな場面で死亡事故が起きています。

① トラクターやコンバインなどの大型農機による事故

多いのは農機運転中の転倒事故です。後進しながら運転する、細いあぜ道を運転するという場面で農機が転倒し、運転者が下敷きになるケースが少なくありません。

② 刈払機や刈取機などの回転機構による事故

回転刃のある機器を使用する際、「絡まったから」と安全カバーを取り外して除去した結果、刃が回転を再開して巻き込まれる痛ましい事故も起こっています。

③ 作業中、バランスを失っての事故

傾斜した面で刈払機などの作業を行う際、足場のバランスを崩して転倒する、異物がこちら向きに飛んだ拍子に転倒する、というケースがあります。

これらの原因となる農業機械は、農作業から外すことはできません。できる限りの安全対策を取って使い続けるしかないのです。しかし、現場の「安全意識」は決して高いとはいえず、先述した高率の作業死亡者を出してしまっています。それはなぜでしょうか。

農業の「安全意識」はどうしても低くなってしまう

大きな原因として考えられるのは、農業がいわゆる私有地で行われることが多く、かつ手順についても内部で「代々のやり方」として伝わりやすい点です。

企業のように常に外部チェックが入る環境では「安全対策は大丈夫か、どのような場合に事故が起きやすいか」という意識を持ちやすいでしょう。しかし代々の農家である場合「長年こうやってきたし、これからも大丈夫だろう」という先入観が入ります。

この先入観を壊し「安全は日々必ずチェックすべき項目」という意識を醸成するのが、安全対策の第一歩です。

農協や農機メーカーだからこそ可能な安全施策とは

農家や農業法人の内側から先入観を壊すのは困難ですが、そこで大きな働きかけを行えるのが農協や農機メーカーの営業スタッフです。具体的な方法を紹介します。

① 販売時や整備時に、必ず安全に関する項目を詳しく説明する

説明書を渡して「見ておいてください」というだけではなく、しつこくても構わないので毎回詳細を説明します。

② 訪問時に見かけた危険行為は、強い言葉で注意喚起する

これについては、非常に強い言葉を使って「しないでください」と怒ってもいいのではと考えています。1人のケガや死亡は経営全体に響くからです。防ぐ強い意思を言葉で示すのは有効です。

③ 農協や農機メーカー内で、毎月危険予知の講習を行う→農家にも情報共有する

現場で発生した事故については、社内で共有してリストに残しましょう。新しい情報は毎月農家さんを訪問したときに詳しく知らせます。何に気をつけるべきか、具体的に伝えられる機会になります。

④ 農閑期の環境整備を促す

大きな農機が安全に走れるようなあぜ道に直す、刈払機を使うために人が平らに歩ける溝を整えるなど、農閑期だからできる環境整備があります。気づいた点はお伝えしてみてください。

作業中の焦りなどは大きな事故の誘因となります。まず焦らずに済む状態にするのを目指します。

農水省も以前から農作業中の危険について啓発を行っています。とても使いやすい安全チェックリストが出ていますので、これらをぜひ活用してみてください。

農作業安全の手順1,2,3 ~農作業事故を未然に防ぐ~

※第4章にチェックリストがあります

次の世代のために一歩前へ進みましょう。

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