本ハウスは令和元年3月、生産者の高齢化や担い手の減少など、生産基盤の弱体化が危惧される中で、環境制御機器を導入した施設園芸ハウスとして、宮崎県経済農業協同組合連合会が設立しました。設立の目的は①新技術構築・普及、②指導員の育成、③生育診断技術開発、④導入資機材実証の4点。本ハウスにおける収穫量の増加はもちろんのこと、県内の農業を全体的に活性化するため、本ハウスを使って研修を行い、新技術に実際に触れる場を作るなど、各農家の現場に知見を持ち帰り生産効率を上げてもらう、学び・共有し・普及させる場としても期待されての設立です。
施設では8棟の高軒高ハウス(フェンロー型ハウス)計2,496㎡内に管理棟312㎡を含み、きゅうり(1,248㎡)とピーマン(936㎡)を、1年を通して栽培しています。この2品目は県内の基幹品目であり、養液栽培における安定生産のための新技術を開発・提示し、実証を行うのに最適であるとして選定されました。
令和5年3月現在、管理職員2名と技術主管1名、雇用従業員5名(うち女性4名)の体制で運営。
きゅうりの収穫の様子
ピーマンのハウス内
ハウスを持ち、技術開発に取り組むという先進的な事例であればメーカーにもある中で、経済連が主体となって行う大きな意義は
の2点。農業の衰退を止め、個々の農家に努力や工夫を推進するためには、何よりも自分たちがモデルとなってやっていく必要性があったとのこと。一方で、農家への指導を口頭で行っても、うまく伝わらなかったり、新しい技術はピンとこなったりする部分が多く、「良いのはわかったが…」と、知識だけが伝わって実装・定着せずに終わるケースが見受けられました。しかし、本ハウスができたことで、実際に自分たちのハウスでは簡単には試せない技術や工夫を目で見て触れられる形で体験・試験でき、効果を自分事として実感したり、自分のハウスに持ち帰ったときにどのように取り入れればよいかというイメージが湧きやすくなったりと、生産者の納得を得やすくなりました。
メーカーによる指導では、どうしても自社の技術の詳細までを開示できないケースもあるため、宮崎経済連が主導することにより、より具体的できめ細やかな指導が可能になったと言えます。同団体がキャッチコピーとして「つなぐ」ということをキーワードにしているように、命を未来へつなぐ役割を継承していく重要な施設のひとつです。
本ハウスではSDGsおよび省エネのための取り組みを下記のように行っています。
潅水装置として、流量・水圧設定型給液装置を設置し養液を管理。また、水を与えた量に対して排液がどのくらい出たかを調べ、適正値に修正することで潅水量の削減を行っています。
排液量をバケツで確認
同様の潅水装置を用い、給液・排液の養液成分分析を行うことで、肥料を適正量に抑えています。
本ハウスにおける省エネのための取り組みは①ハウスの温度管理、②空調服の導入であると考えます。
一般的な保温カーテンの設置はもちろん、カーテンと天井などの隙間を埋め気密性を高めるため、梱包用のエアークッションを利用しています。冬場の夜間など急激な温度変化が見込まれる際は、作業時間の終了時間基準ではなく、温度が下降に入り始める前にハウスを閉めるなど、各季節の外気温等に応じた小まめな対応が行われているのも工夫の一つです。また、ピーマンの栽培においては補助暖房器具としてヒートポンプを導入しています。
温度計測
ヒートポンプ(ネポン株式会社)の製造情報など
職員は空調服で作業をすることで、熱中症を防ぐとともに、作業効率を上げています。
作業の様子
中でも①におけるエアークッションでの遮蔽は、職員の一人が隙間に気づき取り入れたアイデアであり、小さな気づき・アイデアがすぐ実践される環境にあることがうかがえました。
原価軽減の目的もありますが、雇用従業員含め個々人の日常の中での省エネ意識の高さが運営の素地としてあったことで、省エネ対策に積極的な傾向があります。
天敵昆虫
現在は拡大・実証の過程の中である本ハウスですが、ここでの取り組みを成功事例とすることで、「やってみたら、良かったよ」という、データ上の事実だけではない実際の経験として技術を普及していけることを中長期的な目標として掲げています。少数での運営がなせるフットワークの軽さと、経済連が母体であるという安定感の絶妙なバランスが魅力の本ハウス。農業の技術はもちろん、現場の省エネ・SDGs対策についても、宮崎のこれからの農業の「土台であり、最先端」となることが期待されます。
次の世代のために一歩前へ進みましょう。
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