東日本大震災および東京電力福島第一原子力発電所の事故で甚大な被害を受けた南相馬市の農業の再生と復興のため、市が国の復興交付金を活用し、被災地域農業復興総合支援事業により大型ハウス栽培施設を建設。それを、同地域の農家有志が設立した株式会社ひばり菜園が借り受け、2016年から管理・運営を行っています。
経営理念は「お客様にクリーンで安全安心な野菜を届ける」。そのため、JGAP認証にのっとり井戸水の水質の検査を毎日実施しているほか、放射性物質検査も自主的に行うなど、継続的な経営努力を積み重ねています。
「ひばり菜園」で栽培しているケール
主力栽培種目は小ネギで、総販売額の6割余りを占めます。
販売額で続くのは大玉トマトです。少量ですがサンチュやケールなどの葉物野菜も栽培しています。それらは商社や仲卸を通じて、カット野菜業者や大手ハンバーガーチェーン、大手スーパーなどに出荷されています。
小ネギについて話す鎌田俊勝社長
同社のマーケティングにおける強みは、「持続的な営業努力」「クリーンで安全安心」の2つであると考えられます。
同社は優良な商社や仲卸と取引することで、日本有数のファストフードチェーンや大手スーパーに出荷できています。
しかし、そうした状況に胡座をかかず、末端の消費者のニーズに合わせた新商品の開発にトライしています。特に日本で珍しい水耕栽培のケールは、自ら実験的に栽培を始め、サンプル供給を3年続けてノウハウを高めつつ、取引先からの品質要求に耐えられるというアピールを続けてきました。
こうした姿勢は持続可能な農業経営につながると言えます。
原発事故の風評被害に苦しめられた同地域だからこそ、品質・衛生・放射性物質検査を実施するのはもちろん、クリーンで安全安心であることがお客様に伝わるよう創意工夫しています。
例えば、同施設では養液栽培の培地としてロックウールを使っていますが、これは土耕栽培に似た環境で育てられるという育成上のメリットに加え、洗浄しやすく、よりきれいな状態でお客様に出荷できるという見た目上のメリットもあります。
こうしたところにも、同社の理念が現れていると感じます。
鎌田社長(左)をサポートする副社長の原田正巳さん(右)
同社のSDGsの取り組みは主に「ダイバーシティの推進」「トレーサビリティの強化」「資源循環」です。
同社のパートタイマー31人の内訳は男性が7人、女性が24人です。
男性は主に現場での力仕事、女性は主に細かい調整作業と、体力に応じて作業を分担しています。
また、70歳近い高齢者もいますが、そうした方には安全を考慮し、高所作業はさせないといった配慮も行っています。
作業はJGAPのマニュアルを基準とし、トレーサビリティを強化しています。また、放射性物質検査の結果はすべての農作物に紐付けて記録し、情報提示の要求があればすぐ応えられるようにしています。
収穫残さの堆肥化を行い、農家の水稲の圃場に供給しています。
同社の省エネに対しての取り組みは主に「LPガスとヒートポンプの併用」「エネルギー使用の無駄削減」が挙げられます。
寒くなったときの加温の最低ラインを設定し、下回った場合は加熱能力の高いLPガス式加温機を併用するなど、寒冷地ならではの現実的なエネルギーミックスを実施しています。
内部の空気が外部に漏れてエネルギーの無駄にならないよう、穴あき補修や紐の増し締めなどを徹底しています。
ひばり菜園のハウス。奥に見えるのは万葉の里風力発電所の風車。
奥がヒートポンプ、手前がLPガス式加温機
雇用の安定化と取引先からの要望に応えるため、施設の増設を検討していますが、昨今の光熱費急騰を鑑み、リスクヘッジのため土地利用型栽培の並走も視野に入れています。
今回話を伺った社長の鎌田様、後継者である副社長の原田様は、それぞれ東日本大震災で被災しており、だからこそ安全・安心という理念を頑なに守っています。
その姿勢は大いにPRすべきであると考えますが、謙虚な人柄が邪魔をしてSNS活用などに尻込みしています。
ただ、若い原田様は取引先や地元青年部などから情報収集し、PRや事業規模拡大に意欲的です。そうした努力が実を結べば、より持続的な農業経営を実現してくれると期待しています。
次の世代のために一歩前へ進みましょう。
皆様からのご連絡をお待ちしています